2011/09/17
Lower back pain
はじめまして。野口侑真です。
HMSのセッションの2回目。この日は前回派遣学生の山本さんと松本さんが忙しい実習の合間を縫っていらっしゃって、議論に参加してくださいました!
今回は私が患者役となってシナリオを作り、その上で医者役の野田くんがHistory takingをし、得た情報からグループの皆で鑑別診断をしてもらいました。
主訴は「背部痛」です。患者さんの病気の原因はどこにあるのでしょうか?
前回純一くんがまとめてくれたLOCATESに基づいてここにその症例を記すので、知識のある人はすこし推理してみてください。
45 y.o. male
170cm, 60kg
BP 134/72mmHg, HR 76/min, BT 36.8℃, RR 20/min
※ y.o. ...year-old (年齢)
BP...Blood Pressure (血圧)
HR...Heart Rate (心拍数)
RR...Respiratory Rate (呼吸回数)
L: Location of the symptoms (痛みの来る場所)
背中の左下から生じている。痛みは左側腹部にも広がっている。
O: Other symptoms (随伴症状)
今朝から痛みにともなって吐き気を感じている。
トイレに行くと、尿が褐色になっていることに気づいた。
1ヶ月前からは右膝の関節痛、皮膚のかゆみも続いている。
関節痛には市販の抗炎症剤(Loxoprofen)を使用している。
また、この頃から疲れやすくなったことを自覚しており、同僚からは
最近些細なことでいらいらすることが多くなったと指摘されている。
C: Characteristic of the symptom (How do you feel pain?)
鋭い痛み
A: Alleviating Factors (When do you feel better? )
Aggravating Factors ( When about the things that makes you worse?)
身体を動かしても痛みはあまり変わらず、つねにほぼ一定
T: Time of symptom (Duration, Frequency, etc..)
昨日も同様の痛みを感じたが、1時間ほどで軽快。この時腹痛なし。
本人はこれで一度安心したが、今日の朝になって痛みが再発。
E: Environment where symptoms occur
思い当たる特別なことはなく、突然痛くなった。
S: Severity of pain
背部痛: 8/10 吐き気: 4/10 関節痛: 5/10
さて、症状が色々とあってややこしいですね。
まず大事になるのは主訴。今回の患者は背中の痛みを訴えているので、下部背部痛を引き起こsす疾患について考えてみることにします。
・尿管結石
・膵炎
・胆嚢炎
・胃/十二指腸潰瘍
・椎間板ヘルニア
・腫瘍の椎骨転移
・骨粗鬆症による椎体圧迫骨折
・腎梗塞 etc...
まず可能性のあるものを取り敢えず挙げていき、その上で今回の症例と矛盾する点を探していきます。膵炎であれば食後に起こることが多いのですが、今回はそういったエピソードがないので可能性が低くなるかな・・・という具合。
一つ一つ吟味していき、議論の結果軽快・再発する突然の痛み、腹部への放散痛、吐き気から、尿管結石が一番可能性が高いのではないか、という結論に至ります。
診断:尿管結石
このとき、「それなら結石を取れば万事解決!」と考えるかどうかが問題。他にも関節痛や皮膚のかゆみ、倦怠感など、尿管結石では説明のできていない症状が残っているからです。
この時点で「後ろに違う病気が隠れていて、尿管結石はそのサインの一つではないか・・・?」と考えることが出来るかどうかが分かれ道となります。
Discussionはそこへ話が進み、尿管結石の原因となるものは何だろうか、という問いに至ります。
結石の構成物となるものを挙げると
・シュウ酸カルシウム
・尿酸
・シスチン
・リン酸カルシウム
などが挙がります。今回の症例ではシュウ酸カルシウムがその原因だった、という情報が加わったことで、答えがまとまりました。
診断:副甲状腺機能亢進症
~症例解説~
副甲状腺とは、骨からカルシウムを運び出す作用があり、血中のカルシウム濃度を調節しています。今回はこの副甲状腺の機能が異常に高まったため、骨から次々とカルシウムが運びだされて骨がもろくなり、骨折をして関節痛を発症。血液に大量に流れたカルシウムは、尿中に排泄されるが、その過程で結石を作り、尿管結石を形成した。疲れやすい、いらいらする、かゆみなどの症状も副甲状腺機能亢進症によるもの。
今回のセッション内容に関しては以上です。
このように書くとどんなにすごい議論がかわされていたのだろうと想像するかもしれませんが、松本さん、山本さんのサポート無しにはここまで進んでいなかったと思います。
病気をカテゴリーで分類しておき、それぞれから今回の症状と合致する疾患を引き出してくる、という考え方をお二人とも当たり前のように行っていました。
先ほど列挙された疾患も、「〇〇系統での問題によるものだとしたら、何が考えられるか?」と行った具合に質問して下さって、議論が活性化しました。
これまで4年間の勉強は1つ1つの病気について理解を深める、というのが主でしたが、自分の病名が分かって来院する患者さんは(再診などでない限り)いません。
症状ごとに様々な病気を横断的に捉えることが現場では求められます。
これまで学んだ知識を整理して、使いやすく、なおかつすぐ引き出せるようにしておくことが今後の課題となりそう・・・と感じた一日でした。
※おまけ
系統別に疾患を考える上では、VINDICATEが参考になります。
V: Vascular 血管系
I: Infection 感染症
N: Neoplasm 良性/悪性新生物
D: Degenerative 変性疾患
I: Intoxication 中毒
C: Congenital 先天性
A: Auto-immune 自己免疫
T: Trauma 外傷
E: Endocrinopathy 内分泌
それぞれのカテゴリーごとで可能性のある疾患を挙げることで漏れが減ってきます。
野口侑真
ラベル:
Yuma Noguchi
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