2011/09/03

What brought you here today?

Harvard Medical School派遣予定学生のブログへようこそ!派遣までの半年間は、日々の勉強会の様子、学習の仕方を発信していきます。

現在は週に2回問診の練習をしています。週に1度、学生が医者・患者役となり問診を録画します。それを録画直後に学生同士で省察し、数日後に先生方を交えて臨床推論の観点からも深く洞察します。今日は後輩が読んでいるであろうことを念頭に、私たちが今学習している「臨床推論(clinical reasoning)」について簡単に紹介します。

たとえば今日の症例は「胸痛(chest pain)」。
What brought you here today?(本日はどうされましたか?)
My chest hurts.(胸が痛いんです)
まずは患者さんの訴えに対して、必要事項を聞いていきます。痛みの性状、経過、随伴症状にはじまり、家族の話、生活の話など、ある程度はルーチンで聞くべき事項が決まっています。必要に応じてメモも取りますが、全て書いていては話をしっかりと聞くことができないため、最低限にとどめます。私自身は以下に示す経過表を描くのが好きです。


そして、ここからが頭の使いどころ。

話を聞きながら考えられる疾患をリストアップし、可能性の高い順番にソートしていきます。(話を聞きながら、なので結構大変です!)

たとえば今回の症例であれば、58歳男性・胸骨直下の1か月前からのsqeezingな痛み・痛みの強さは7-8/10・労作時に増悪・安静時痛み無し・下顎にも痛みが放散・肩への痛み無し、といった情報から、まずは危険な疾患("5 killers": Myocardial infarction; Pulmonary embolism; Aortic dissection; Spontaneous pneumothorax; Esophageal rupture)の可能性を吟味(目の前で死なれては大変!)、それがなさそうとわかれば最もあり得そうな
  1. Stable angina(安定型狭心症)
  2. GERD(逆流性食道炎)
  3. Musculoskeletal disorders(筋骨格系の疾患)
の可能性を検討していきます。今回は幸い狭心症の典型的な症例で、比較的すぐに診断にたどり着くことができました。

このように、症状から考えられる疾患をしぼって診断に至る過程を「臨床推論(clinical reasoning)」と呼びます。これがまさに今私たちが学習していることです。

臨床推論を学習する私たちの最大の課題は
  1. 考えられる疾患のリストを網羅的に挙げること
  2. 診断に結びつく焦点を絞った質問(focused questions)をすること
です。一口に「胸痛」といっても、筋骨格なのか、肺なのか、心臓なのか、消化器なのか…可能性は数多くあります。それを網羅的に挙げて、いかに鑑別をしぼっていくか、がまさに腕の見せ所なのです。これからエビデンスに基づいた臨床推論の実践を目標に、練習と省察、自己学習を繰り返していきます。

ちなみに自己学習に私たちが使っているのは、以下の教科書です。自学自習に優れた教科書なので、ここで一度紹介しておきます。
  • Stern S et al. Symptoms to Diagnosis: an Evidence-Based Guide Second Edition. McGrawHill 2010.(http://amzn.to/ppzu0Q
  • Tierney L et al. The Patient History: Evidence-Based Approach. McGrawHill 2004.(http://amzn.to/nAlBKQ
臨床推論なんて聞いたことがない!のであればこちらもお勧めです。
  • 野口善令、福原俊一『誰も教えてくれなかった診断学―患者の言葉から診断仮説をどう作るか』医学書院、2008.(http://amzn.to/nNfe9a
今日のセッションでは録画後、話し方、質問の仕方から言葉の選び方まで学生間でフィードバックを行い、有意義な議論となりました。やはり効果的な学習には信頼できる仲間と優れた先生方が不可欠――今日はメンバーの深い洞察、お互いの成長のための積極的なコミットメントを改めて目の当たりにし、初回セッションながら今後が楽しみになりました。

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