2011/09/12

What's the differential diagnosis?

 こんにちは。高橋純一です。HMSへ向けてのセッションが始まり1週間が経ちました。
先日向川原君が紹介してくれたように、本セッションは学生が医者・患者役をし、問診をした
上で鑑別診断を洞察するというスタイルで行われております。
 ところで、「鑑別診断(differential diagnosis)」とは実際どのようなもので、どのようなProcessを経て行われるのでしょうか。今回の記事では、私が患者役を務めた「jaundice (黄疸)」を例として「鑑別診断」について紹介させていただきます。

  ☆ Case 62y.o, Male
    最近黄疸を家族から指摘され、心配になり来院。

さて、ゴングが鳴りました。この患者の未来は医者であるあなたに掛っています。
鑑別診断を正確に行うためには、「必要な情報を適切に収集する」ことが肝要です。

まず、Open Questionを用いて、つまり症状について患者に自由に語らせることを目的として質問をします。

☆Open Questionを用いてHistory Taking をスタート!
この際、[LOCATES]を明らかにします。すなわち、以下の情報を患者から導きだします。

L: Location of the symptoms (Where is the pain? / Where is the color change, etc..)
O: Other symptoms (Do you have any other symptoms?)
C: Characteristic of the symptom (How do you feel pain?)
A: Alleviating Factors (When do you feel better? )
     Aggravating Factors ( When about the things that makes you worse?)
T: Time of symptom (Duration, Frequency, etc..)
E: Environment where symptoms occur
S: Severity of pain  ( Can you rate the rate of the pain  with a scale of ten, one being little pain and ten being worst pain?)

さて、患者が答えたことをまとめると以下のようになりました。
 ・全身と目が黄色い。一か月前はそんなことなかったが、5日前に初めて指摘された。
   ―急性発症か。
 ・他の症状に「Walking 時の呼吸困難(3日前より)」がある。
   ―「空気が足りない感じ」
   ―「運動すると苦しくなり、休んでいると楽になる」

ここで、医者はいくつかの可能性を考え、このことを「鑑別を挙げる」と言います。

・黄疸→①肝臓障害 ②溶血 ③ミカン食べ過ぎた
・呼吸困難→①心疾患 ②呼吸器疾患 ③造血系疾患 ④心因性

考えられるものを全てに対し検査をするわけにはいかず、可能性の高いものを絞り込んでいく作業を行います。そのために以下のProcessを行います。無数にある疾患から可能性の高いものを残しつつ、命取りになるような「見落とし」をしないように進めていきます。例えば本症例の原因が実は「肝臓がん」だった場合、見逃したら不幸が訪れます。だからと言って全員に肝臓がんを見つけるための検査(CT MRI 生検など)をするのは「無駄な医療」になってしまいます。医者は正確な診断を効率よく行う必要があり、その能力こそ名医の条件の1つであります。

さて、実際にどのようなことを行うのでしょうか。以下説明をします。

①Focused Questionによる問診
 「各鑑別疾患の可能性を吟味する」ことを目的として質問をしていきます。
②患者のBackgroundの理解
 社会的背景や既往歴など、患者そのものに対する情報も非常に有用であり、診断の決め手となります。

本例では以下のような情報が得られました。
・尿の色に変わりはない(→黄疸の原因を絞り込む上で有用。直接Bil優位か、間接Bil優位か)
・過去に大きな外傷、輸血、病気などをしたことがない。(HBVやHCV感染のリスクは低い)
・刺青ない(HBV、HCVのリスク低い)
・ビールは1日1リットル(脂肪肝のリスク吟味)
・高血圧に対してα-methyldopaという薬を飲んでいる 
・黄疸になったことは今までない(Gilbert症候群など、黄疸が出る体質の人がいる)
・心疾患を疑わせる症状は少ない(浮腫なし、夜の呼吸困難なし、etc)
・ストレスはない(心因性の呼吸困難は可能性低いか) 
・最近熱や咳などはない
・アジア渡航歴ない(HAVなどの流行地)
 などなど。


さて、この患者はどのような病気をもっているのでしょうか。
①肝臓障害
・肝硬変/肝臓がん
 比較的急性発症の黄疸であること、HBV/HCV感染歴も考えにくいことなどから考えにくい
・急性肝炎
 先行感染がないこと、最近の海外渡航歴がないことなどより考えにくい

②溶血
・急性発症
・長年のα-Methyldopa服用
(自己免疫性溶血性貧血のリスクファクター。「自己免疫性溶血性貧血」とは、酸素を運ぶ赤血球が自分の免疫系に壊されて、体中に酸素を運べなくなって酸欠状態になってしまう疾患のこと。)

などなどの考察により、②の溶血性貧血が疑わしいと考えられます。ここで診察をしてみます。
結果は・・・
・瞼が蒼白(貧血を示唆)
・肝臓はあまり大きくなっていなそう(肝硬変、進行した肝がんなどは考えにくい)

②の可能性が高くなってきました。ここで初めてあなたは検査をします。
・血液検査
  間接Bil↑(溶血に合致) Hpt↓(溶血!) 赤血球↓(貧血!)
・腹部エコー
  とくに肝臓に異変はない

問診の時点で肝臓の病気の可能性は低いと考えられ、また簡単に行えるエコー検査でも肝臓に病変はなかったので、わざわざMRIやCT撮る必要はありません。(問診による絞り込みが役効いた!!!)

このことから、「α-Methyldopa長期投与による自己免疫性溶血性貧血」との診断が下り、適切な治療を受けた後元気に退院して行きました。

以上が「黄疸」をテーマにした鑑別診断の一例です。鑑別診断能力を磨きあげることが我々医学生及び医師に求められていることの一つであるでしょう。この能力を切れ味のよいものに磨きあげていきたいと願う、週末の夜でした。

高橋純一



 

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