2011/12/03

Brilliant Winter Stars

こんにちは、坂口です。正直初めてブログを見ましたが、メンバーが熱心に活動の報告をしているようなので、趣向を変えて私は自分の趣味についてちょこっと書こうと思います。
季節が冬ということで、皆さん夜空を見上げてみませんか?冬は明るい星が多く、都会でも結構色々見えます。誰もがオリオン座の形くらいは知っていると思いますが、M42(オリオン座大星雲)の存在は知っていますか?三つ星の下に小三つ星というのがあって、それがM42になります。双眼鏡でもぼうっとした赤い光がよく見えるので、観測しやすいでしょう。
オリオン座の中にはもう一つ有名なものがあります。馬頭星雲という暗黒星雲ですが、これは、1888年にハーバード大学天文台の写真観測によって初めて発見されました。と、無理矢理ハーバードと関連付けてみました。
それらが見つかったら、今度はベテルギウスシリウス、プロキオンと冬の大三角を探してみましょう。シリウスは惑星を除けば‐1.5等と全天で1番明るい星です。すぐに見つけられるでしょう。
実は冬の大6角形というものも存在します。シリウス(おおいぬ座)リゲル(オリオン座)アルデバラン(おうし座)カペラ(ぎょしゃ座)ポルックス(ふたご座)、プロキオン(こいぬ座)を順に結んだものですが、実際に見上げてみれば、どれだけスケールが大きいものか実感できるでしょう。
おうし座で知っておきたいのはヒアデス星団とプレアデス星団です。アルデバランを見てみれば、なんだかV字っぽいものを構成していることがわかります。これがヒアデス星団になります。プレアデス星団は日本ではすばるという名で親しまれています。目のいい人は肉眼で6個明るい星が見えます。昔は視力検査に使っていた地域もあるとか。5000万年程度の若い星の群れですが、いかんせん燃料消費が激しいので数千万年後には砕け散る運命にあります。美人薄命ということです。
視界の開けたところに住んでいる人は、シリウスの下の方にある明るい星を探してみましょう。カノープスという-0.7等の星で、全天2番目の明るさを誇ります。南中高度がとても低く、日本では沖縄以外だとなかなか見るのが難しいので、昔から長寿星と呼ばれ、見ることができたら健康で長寿にあやかれるめでたい星であるとされています。
余談ですが、前にオーストラリアに旅行に行ったとき、かの有名な(国旗のデザインになるほど)サザンクロスを見てきましたが、ちっちゃくてあんまり迫力がなかったのが非常に残念だったのを思い出しました。明るくて見つけやすいのは事実ですが・・・個人的には雄大な北十字(はくちょう座の一部)の方が好きです。小粒でかわいいものを好む人はサザンクロスを見に行くといいかもしれません。
ただ、砂漠で見る星空は圧巻でした。日本でも合宿で星がよく見えるところに行きましたが、透明度のレベルが違う。星が多すぎて夜でも明るいとかちょっと意味わかんなかったです。もちろん、中学のとき初めて長野で夏の天の川を見たときも必要以上に興奮していました(笑)
さて、そろそろふたご座流星群を見ることができるはずです。極大は12月中旬ですが、流星って普通に空を見上げても意外に見えるものだって知ってましたか?1時間寝っ転がっていれば、5-6個は見えると思います。都会に住んではいますが、私もふとした拍子によく見ます。一瞬のことなので、消えるまでに願い事3回唱えるとかどんだけ無理ゲーなんだよとか思いますが。ちなみに10年以上前のしし座流星雨のときは、空を文字通り横切ってしかも痕が13秒残るとかいう化け物みたいな爆発火球が見られましたが、当時は唖然として願い事どころではありませんでした・・・

なんだか書いてて楽しくなっちゃって長くなってしまいましたが・・・・・・、英語と全然関係なくてごめんなさい(笑)

坂口玲

2011/11/20

Intensive Training for Telephone Interview

こんにちは、中村です。

9月に始動したトレーニングも始まってから3か月が経とうとしています。
実習との両立で忙しいときもありましたが、その分あっという間な気もしています。

そしていま、我々はHMS留学に向けて最大の山場を迎えています。その名も…



 でんわめんせつ。。でんわめんせつ。。でんわめんせつ。。でんわめんせつ。。



ひびきは優しいですが、はるか遠く、電話の向こうにいるのはおっかない人だそうです。


HMSには海外からの実習希望者がたくさん応募してきますが、私たちのような英語が母国語でない学生たちはこの電話面接で実習を行うのに充分なだけの英語力があることを示さなければなりません。


諸先輩方の体験談をもとにすると、面接で聞かれる内容には大きく分けて3つあります。

①名前、学校名、学年、海外経験の有無など自己紹介的な質問。

②今までにどんな科をローテートしてどんなことを学んできたか。
そして、HMSではどんな科を回りたいのかなど、実習に関する質問。

③心筋梗塞の治療法は?虫垂炎の診断方法は??など医学知識に関する質問。

の3つです。

このような質問がされ、だいたい5~10分で終了します。


…が!!!


一筋縄ではいかないのがこの電話面接の怖いところ。

予期せぬ質問や若干意味不明な質問がいきなり飛んでくることもあり、一度ハマってしまうと質問もエスカレート。悪循環にはまって面接が長引いてしまう恐れもあります…


そういうわけで、そんなとき如何にして対応し、電話の向こうの人をイラつかせないか、それも大事な対策すべき事項の一つになってくるわけです。



そんなこんなで今回も集中特訓が開催されました。



参加者は小部屋に一人ずつこもって、ひたすらお互いに電話を掛け合います。
傍から見たらちょっとこっけいな感じもしますが、実践練習が一番です。

電話越しに話をするというのは想像以上に難しく、相手の表情が見えないのはコミュニケーションをとる上でかなりの障害になるということが分かりました。

それでも何度も何度も繰り返していくうちに、受け答えもよりスムーズになり、予期せぬ質問が来ても詰まらずに上手く答える術が身につきました。

たった2日間だったけれど集中特訓の大切さが身にしみました。


…けれどやはり不安は残ります。。
どんなに準備しても、し足りない気がする。。


そんな電話面接ですが、目指すは11人全員での合格!!


休日にもかかわらずわざわざ学校まで来ていただいた教務課の園田さんから頂いた
バームクーヘンを食べながら、これからも頑張っていこうと決心した日曜日でした。

2011/11/08

Intensive training

中野です。

みんなが医者役として問診を最低一回やりました。
しかし、週に2人しか医者役はできませんし、
今年は例年よりも人数が多いので場数がふめない・・・
先輩達の助言でも、「たくさん英語を話す機会をつくることが肝要」と。


そこでメンバーの中村くんがひらめきました・・・


"intensive training"をすればいいんじゃないかと!!



そこで10/30、11/6の2週にわたって行われましたこの"intensive training"、
はやい話、集中合宿です。
我々はM&Dタワーの一室にこもりました。

その概要は・・・
それぞれが割り当てられた症例で患者を作ってきて、
患者プロフィールと鑑別診断などをプリントにまとめておきます。

そしてあらかじめ決められたタイムテーブルに沿って、
各ペアの医者役が一斉に問診を開始します。
与えられた時間は15分!

終了するとその症例についてのフィードバックをします。
軽く鑑別とその後のプランなどを医者役がプレゼン、
患者役が解説などをします。
話し合う時間は5分!

そして医者役と患者役を交代して、また問診スタート!


このようなことを合計9クール行いました。

昼の2時に始めて、気付けば窓の外は真っ暗。
最終的に終了したのは夜の9時でした。
こんな長時間英語をしゃべりっぱなしの状況は
日頃あまり経験しなかったことでしょう。
お腹がすいたときはやはりスニッカーズに限ります。

この"intensive training"で
一通りの問診の流れが板についたと思います。
History of presenting illness
(open question→closed question、Review of systems・・・)
からPast medical history、Social history, Sexual history・・・
とても実りのあるトレーニングになったと思います。

このすばらしい機会を発案しorganizeしてくださった
中村くんには盛大な拍手が送られました!


そして電話面接の時期も徐々に忍び寄ってきています。
それに向けて今みんな準備をすすめているところです。
休んでる暇はありません!
為せば成る!!

2011/10/18

Presentation

はじめまして。

中釜瞬と申します。

ブログの更新が非常に遅れてしまったことについてお詫びします。
申し訳ありませんでした。

先週からのセッションでは、これまでと趣向を少し変えて、
セッションに参加した学生全員が、扱った症例のプレゼンテーションを
行うという試みを追加しました。

プレゼンテーションでは、自分がHistory Takingで得た患者の情報を、
正確かつ短時間で自分の指導医に伝える必要があります。

自分が得た情報が指導医にうまく伝わらなければ、
せっかく行ったHistory Takingは無駄なものとなってしまい、
患者さんにとっても自分にとっても時間の無駄になってしまいます。
このようなことになってしまわないためにも、プレゼン能力がいかに
重要なものかが分かると思います。

今回のセッションで、全員のプレゼンを聞いて感じたことは、
プレゼンテーションの様式が全員バラバラで、
どのプレゼンもスタイルが違うなぁ、ということでした。

全員がバラバラな様式で話しているせいで、聞いている先生からすれば、
何を重点的に話しているのか、どういう時間経過で話しているのかなど、
話を追っていくだけでも大変になってしまいます。

指導医の先生方は、私たちの話を聞きながら、鑑別診断やアセスメント、
その後のプランなどについても考えなければならないので、
私たちは話を100%理解してもらう必要があります。

そのためには、やはり統一されたフォーマットが必要だな
実感させられました。

私もこの時までは、自分なりに分かりやすいようにまとめて
説明しておけばいいんじゃないかと考えていたのですが、
どうもそうではないようです。

全員が統一された形式でプレゼンを行えば、聞いていて非常に
理解しやすいものになり、時間の短縮にもなりますし、
その後の議論も活発になるのだそうです。

CC実習中にも、症例のプレゼンをする機会はたくさんあるので、
学生のうちからプレゼンの技術を身につけておけば、
非常に役に立つではない思います。

最後に、プレゼンテーションに関して私が今読んでいる本を
紹介したいと思います。

プレゼンの基本的なフォーマット、良いプレゼンにするための
改善方法など、とても分かりやすく書いてあるので、
最初に読むには非常に読みやすいのでないかと思います。

といっても、私はこの本しか読んでないので、他にもいい本があれば、
ぜひ紹介してください。

よろしくお願いします。

・岸本暢将 『米国式 症例プレゼンテーションが劇的にうまくなる方法』羊土社、2004

中釜瞬

2011/09/17

Lower back pain


はじめまして。野口侑真です。
HMSのセッションの2回目。この日は前回派遣学生の山本さんと松本さんが忙しい実習の合間を縫っていらっしゃって、議論に参加してくださいました!

今回は私が患者役となってシナリオを作り、その上で医者役の野田くんがHistory takingをし、得た情報からグループの皆で鑑別診断をしてもらいました。
主訴は「背部痛」です。患者さんの病気の原因はどこにあるのでしょうか?
前回純一くんがまとめてくれたLOCATESに基づいてここにその症例を記すので、知識のある人はすこし推理してみてください。


45 y.o. male
170cm, 60kg
BP 134/72mmHg, HR 76/min, BT 36.8℃, RR 20/min
※ y.o. ...year-old (年齢)
BP...Blood Pressure (血圧)
    HR...Heart Rate (心拍数)
    RR...Respiratory Rate (呼吸回数)

L: Location of the symptoms (痛みの来る場所)
背中の左下から生じている。痛みは左側腹部にも広がっている。

O: Other symptoms (随伴症状)
今朝から痛みにともなって吐き気を感じている。
トイレに行くと、尿が褐色になっていることに気づいた。

1ヶ月前からは右膝の関節痛、皮膚のかゆみも続いている。
関節痛には市販の抗炎症剤(Loxoprofen)を使用している。
また、この頃から疲れやすくなったことを自覚しており、同僚からは
最近些細なことでいらいらすることが多くなったと指摘されている。

C: Characteristic of the symptom (How do you feel pain?)
鋭い痛み

A: Alleviating Factors (When do you feel better? )
     Aggravating Factors ( When about the things that makes you worse?)
身体を動かしても痛みはあまり変わらず、つねにほぼ一定

T: Time of symptom (Duration, Frequency, etc..)
昨日も同様の痛みを感じたが、1時間ほどで軽快。この時腹痛なし。
本人はこれで一度安心したが、今日の朝になって痛みが再発。

E: Environment where symptoms occur
思い当たる特別なことはなく、突然痛くなった。

S: Severity of pain
背部痛: 8/10 吐き気: 4/10 関節痛: 5/10


さて、症状が色々とあってややこしいですね。
まず大事になるのは主訴。今回の患者は背中の痛みを訴えているので、下部背部痛を引き起こsす疾患について考えてみることにします。

・尿管結石

・膵炎
・胆嚢炎
・胃/十二指腸潰瘍

・椎間板ヘルニア
・腫瘍の椎骨転移
・骨粗鬆症による椎体圧迫骨折
・腎梗塞 etc...

まず可能性のあるものを取り敢えず挙げていき、その上で今回の症例と矛盾する点を探していきます。膵炎であれば食後に起こることが多いのですが、今回はそういったエピソードがないので可能性が低くなるかな・・・という具合。

一つ一つ吟味していき、議論の結果軽快・再発する突然の痛み、腹部への放散痛、吐き気から、尿管結石が一番可能性が高いのではないか、という結論に至ります。

診断:尿管結石


このとき、「それなら結石を取れば万事解決!」と考えるかどうかが問題。他にも関節痛や皮膚のかゆみ、倦怠感など、尿管結石では説明のできていない症状が残っているからです。
この時点で「後ろに違う病気が隠れていて、尿管結石はそのサインの一つではないか・・・?」と考えることが出来るかどうかが分かれ道となります。

Discussionはそこへ話が進み、尿管結石の原因となるものは何だろうか、という問いに至ります。
結石の構成物となるものを挙げると

・シュウ酸カルシウム
・尿酸
・シスチン
・リン酸カルシウム

などが挙がります。今回の症例ではシュウ酸カルシウムがその原因だった、という情報が加わったことで、答えがまとまりました。

診断:副甲状腺機能亢進症


~症例解説~
副甲状腺とは、骨からカルシウムを運び出す作用があり、血中のカルシウム濃度を調節しています。今回はこの副甲状腺の機能が異常に高まったため、骨から次々とカルシウムが運びだされて骨がもろくなり、骨折をして関節痛を発症。血液に大量に流れたカルシウムは、尿中に排泄されるが、その過程で結石を作り、尿管結石を形成した。疲れやすい、いらいらする、かゆみなどの症状も副甲状腺機能亢進症によるもの。


今回のセッション内容に関しては以上です。
このように書くとどんなにすごい議論がかわされていたのだろうと想像するかもしれませんが、松本さん、山本さんのサポート無しにはここまで進んでいなかったと思います。

病気をカテゴリーで分類しておき、それぞれから今回の症状と合致する疾患を引き出してくる、という考え方をお二人とも当たり前のように行っていました。
先ほど列挙された疾患も、「〇〇系統での問題によるものだとしたら、何が考えられるか?」と行った具合に質問して下さって、議論が活性化しました。

これまで4年間の勉強は1つ1つの病気について理解を深める、というのが主でしたが、自分の病名が分かって来院する患者さんは(再診などでない限り)いません。
症状ごとに様々な病気を横断的に捉えることが現場では求められます。

これまで学んだ知識を整理して、使いやすく、なおかつすぐ引き出せるようにしておくことが今後の課題となりそう・・・と感じた一日でした。

※おまけ

系統別に疾患を考える上では、VINDICATEが参考になります。
V: Vascular 血管系
I: Infection 感染症
N: Neoplasm 良性/悪性新生物
D: Degenerative 変性疾患
I: Intoxication 中毒
C: Congenital 先天性
A: Auto-immune 自己免疫
T: Trauma 外傷
E: Endocrinopathy 内分泌

それぞれのカテゴリーごとで可能性のある疾患を挙げることで漏れが減ってきます。






野口侑真

2011/09/12

What's the differential diagnosis?

 こんにちは。高橋純一です。HMSへ向けてのセッションが始まり1週間が経ちました。
先日向川原君が紹介してくれたように、本セッションは学生が医者・患者役をし、問診をした
上で鑑別診断を洞察するというスタイルで行われております。
 ところで、「鑑別診断(differential diagnosis)」とは実際どのようなもので、どのようなProcessを経て行われるのでしょうか。今回の記事では、私が患者役を務めた「jaundice (黄疸)」を例として「鑑別診断」について紹介させていただきます。

  ☆ Case 62y.o, Male
    最近黄疸を家族から指摘され、心配になり来院。

さて、ゴングが鳴りました。この患者の未来は医者であるあなたに掛っています。
鑑別診断を正確に行うためには、「必要な情報を適切に収集する」ことが肝要です。

まず、Open Questionを用いて、つまり症状について患者に自由に語らせることを目的として質問をします。

☆Open Questionを用いてHistory Taking をスタート!
この際、[LOCATES]を明らかにします。すなわち、以下の情報を患者から導きだします。

L: Location of the symptoms (Where is the pain? / Where is the color change, etc..)
O: Other symptoms (Do you have any other symptoms?)
C: Characteristic of the symptom (How do you feel pain?)
A: Alleviating Factors (When do you feel better? )
     Aggravating Factors ( When about the things that makes you worse?)
T: Time of symptom (Duration, Frequency, etc..)
E: Environment where symptoms occur
S: Severity of pain  ( Can you rate the rate of the pain  with a scale of ten, one being little pain and ten being worst pain?)

さて、患者が答えたことをまとめると以下のようになりました。
 ・全身と目が黄色い。一か月前はそんなことなかったが、5日前に初めて指摘された。
   ―急性発症か。
 ・他の症状に「Walking 時の呼吸困難(3日前より)」がある。
   ―「空気が足りない感じ」
   ―「運動すると苦しくなり、休んでいると楽になる」

ここで、医者はいくつかの可能性を考え、このことを「鑑別を挙げる」と言います。

・黄疸→①肝臓障害 ②溶血 ③ミカン食べ過ぎた
・呼吸困難→①心疾患 ②呼吸器疾患 ③造血系疾患 ④心因性

考えられるものを全てに対し検査をするわけにはいかず、可能性の高いものを絞り込んでいく作業を行います。そのために以下のProcessを行います。無数にある疾患から可能性の高いものを残しつつ、命取りになるような「見落とし」をしないように進めていきます。例えば本症例の原因が実は「肝臓がん」だった場合、見逃したら不幸が訪れます。だからと言って全員に肝臓がんを見つけるための検査(CT MRI 生検など)をするのは「無駄な医療」になってしまいます。医者は正確な診断を効率よく行う必要があり、その能力こそ名医の条件の1つであります。

さて、実際にどのようなことを行うのでしょうか。以下説明をします。

①Focused Questionによる問診
 「各鑑別疾患の可能性を吟味する」ことを目的として質問をしていきます。
②患者のBackgroundの理解
 社会的背景や既往歴など、患者そのものに対する情報も非常に有用であり、診断の決め手となります。

本例では以下のような情報が得られました。
・尿の色に変わりはない(→黄疸の原因を絞り込む上で有用。直接Bil優位か、間接Bil優位か)
・過去に大きな外傷、輸血、病気などをしたことがない。(HBVやHCV感染のリスクは低い)
・刺青ない(HBV、HCVのリスク低い)
・ビールは1日1リットル(脂肪肝のリスク吟味)
・高血圧に対してα-methyldopaという薬を飲んでいる 
・黄疸になったことは今までない(Gilbert症候群など、黄疸が出る体質の人がいる)
・心疾患を疑わせる症状は少ない(浮腫なし、夜の呼吸困難なし、etc)
・ストレスはない(心因性の呼吸困難は可能性低いか) 
・最近熱や咳などはない
・アジア渡航歴ない(HAVなどの流行地)
 などなど。


さて、この患者はどのような病気をもっているのでしょうか。
①肝臓障害
・肝硬変/肝臓がん
 比較的急性発症の黄疸であること、HBV/HCV感染歴も考えにくいことなどから考えにくい
・急性肝炎
 先行感染がないこと、最近の海外渡航歴がないことなどより考えにくい

②溶血
・急性発症
・長年のα-Methyldopa服用
(自己免疫性溶血性貧血のリスクファクター。「自己免疫性溶血性貧血」とは、酸素を運ぶ赤血球が自分の免疫系に壊されて、体中に酸素を運べなくなって酸欠状態になってしまう疾患のこと。)

などなどの考察により、②の溶血性貧血が疑わしいと考えられます。ここで診察をしてみます。
結果は・・・
・瞼が蒼白(貧血を示唆)
・肝臓はあまり大きくなっていなそう(肝硬変、進行した肝がんなどは考えにくい)

②の可能性が高くなってきました。ここで初めてあなたは検査をします。
・血液検査
  間接Bil↑(溶血に合致) Hpt↓(溶血!) 赤血球↓(貧血!)
・腹部エコー
  とくに肝臓に異変はない

問診の時点で肝臓の病気の可能性は低いと考えられ、また簡単に行えるエコー検査でも肝臓に病変はなかったので、わざわざMRIやCT撮る必要はありません。(問診による絞り込みが役効いた!!!)

このことから、「α-Methyldopa長期投与による自己免疫性溶血性貧血」との診断が下り、適切な治療を受けた後元気に退院して行きました。

以上が「黄疸」をテーマにした鑑別診断の一例です。鑑別診断能力を磨きあげることが我々医学生及び医師に求められていることの一つであるでしょう。この能力を切れ味のよいものに磨きあげていきたいと願う、週末の夜でした。

高橋純一



 

2011/09/03

What brought you here today?

Harvard Medical School派遣予定学生のブログへようこそ!派遣までの半年間は、日々の勉強会の様子、学習の仕方を発信していきます。

現在は週に2回問診の練習をしています。週に1度、学生が医者・患者役となり問診を録画します。それを録画直後に学生同士で省察し、数日後に先生方を交えて臨床推論の観点からも深く洞察します。今日は後輩が読んでいるであろうことを念頭に、私たちが今学習している「臨床推論(clinical reasoning)」について簡単に紹介します。

たとえば今日の症例は「胸痛(chest pain)」。
What brought you here today?(本日はどうされましたか?)
My chest hurts.(胸が痛いんです)
まずは患者さんの訴えに対して、必要事項を聞いていきます。痛みの性状、経過、随伴症状にはじまり、家族の話、生活の話など、ある程度はルーチンで聞くべき事項が決まっています。必要に応じてメモも取りますが、全て書いていては話をしっかりと聞くことができないため、最低限にとどめます。私自身は以下に示す経過表を描くのが好きです。


そして、ここからが頭の使いどころ。

話を聞きながら考えられる疾患をリストアップし、可能性の高い順番にソートしていきます。(話を聞きながら、なので結構大変です!)

たとえば今回の症例であれば、58歳男性・胸骨直下の1か月前からのsqeezingな痛み・痛みの強さは7-8/10・労作時に増悪・安静時痛み無し・下顎にも痛みが放散・肩への痛み無し、といった情報から、まずは危険な疾患("5 killers": Myocardial infarction; Pulmonary embolism; Aortic dissection; Spontaneous pneumothorax; Esophageal rupture)の可能性を吟味(目の前で死なれては大変!)、それがなさそうとわかれば最もあり得そうな
  1. Stable angina(安定型狭心症)
  2. GERD(逆流性食道炎)
  3. Musculoskeletal disorders(筋骨格系の疾患)
の可能性を検討していきます。今回は幸い狭心症の典型的な症例で、比較的すぐに診断にたどり着くことができました。

このように、症状から考えられる疾患をしぼって診断に至る過程を「臨床推論(clinical reasoning)」と呼びます。これがまさに今私たちが学習していることです。

臨床推論を学習する私たちの最大の課題は
  1. 考えられる疾患のリストを網羅的に挙げること
  2. 診断に結びつく焦点を絞った質問(focused questions)をすること
です。一口に「胸痛」といっても、筋骨格なのか、肺なのか、心臓なのか、消化器なのか…可能性は数多くあります。それを網羅的に挙げて、いかに鑑別をしぼっていくか、がまさに腕の見せ所なのです。これからエビデンスに基づいた臨床推論の実践を目標に、練習と省察、自己学習を繰り返していきます。

ちなみに自己学習に私たちが使っているのは、以下の教科書です。自学自習に優れた教科書なので、ここで一度紹介しておきます。
  • Stern S et al. Symptoms to Diagnosis: an Evidence-Based Guide Second Edition. McGrawHill 2010.(http://amzn.to/ppzu0Q
  • Tierney L et al. The Patient History: Evidence-Based Approach. McGrawHill 2004.(http://amzn.to/nAlBKQ
臨床推論なんて聞いたことがない!のであればこちらもお勧めです。
  • 野口善令、福原俊一『誰も教えてくれなかった診断学―患者の言葉から診断仮説をどう作るか』医学書院、2008.(http://amzn.to/nNfe9a
今日のセッションでは録画後、話し方、質問の仕方から言葉の選び方まで学生間でフィードバックを行い、有意義な議論となりました。やはり効果的な学習には信頼できる仲間と優れた先生方が不可欠――今日はメンバーの深い洞察、お互いの成長のための積極的なコミットメントを改めて目の当たりにし、初回セッションながら今後が楽しみになりました。